山野草探訪 想い出の記 52(未完)  (合成している画像もあります


井之川岳・カラタチバナ

(サクラソウ科ヤブコウジ属)2月12日

2021年徳之島の井之川岳、天城岳の山頂一帯が世界自然遺産に登録された。

この島にもハブが生息しているから人々は必要以上に山に入らない。

ハブが徳之島の自然を辛うじて守っているとも言える。

タンカン収穫体験をするためこの島を訪れたのは2月中旬。

いくら暖国と言ってもこの時期山の花はほとんど見られない。

井之川岳への道で出会った目ぼしいものは岩棚にあったアマミノクロウサギの糞、網目模様のカゴメランの葉、薄暗い常緑樹の下で目立つカラタチバナの

赤い実ぐらいである。

 

山門水源の森・キタヤマオウレン

(キンポウゲ科オウレン属)3月10日

キタヤマオウレンが咲き始めたとの知らせを受けて琵琶湖北端の水源の森に出掛けた。

バイカオウレンに似ており、全体にやや大きいだけかと思ったが葉の数がバイカオウレン5枚に対し、この花は3枚だいう。よく見ると確かに2:2:1で3枚だ。

近くには白桃色の株が春の陽光を浴びて周囲を柔らかな雰囲気で包んでいる。

「春は曙」で始まる古典がある。秋に咲くリンドウ科のアケボノソウには申し訳ないが、このオウレンこそがアケボノソウに相応しいと感じた。

 

 

古座川町・クマノザクラ

(バラ科サクラ属)3月17日

100年ぶり新種の桜「クマノザクラ」発見の新聞記事を見つけた。

付近には変わった地層や地形があるので、それも見たさに切り抜きを持って

早速現地に赴いた。新種であれば日本で10番目のサクラの自然種となる。

山には点々と桜が咲いている。切り抜きには花の紅色が濃い、葉が小さいとかヤマザクラとの区別の仕方が記載されていたが、個体差があり、何より比較できるヤマザクラがまだ咲いていない。相対比較で同定するのは困難だ。

地元の人は昔から「熊野のヤマザクラは3月と4月に二度咲く」言っているそうだ。3月に咲くのがクマノザクラ、4月に咲くのはヤマザクラとしておこう。

藤原岳・フクジュソウ

(キンポウゲ科フクジュソウ属)4月5日

「花の百名山」(田中澄江著)で」紹介されて藤原岳のフクジュソウはいっそう有名になった。

雪が解け始めるといち早く顔を出し、8合目から9合目にかけて4月上旬まで山を賑わす。

早春に咲くこの花は、光沢のある花弁をパラボナアンテナのように拡げて中心をを暖ためる。

少しでも多くの虫を呼ぶため居心地のよい場所を提供するためだ。

可愛い花も子孫を残すための工夫をこらし懸命に生きている。

 

入道岳・ミノコバイモ

(ユリ科バイモ属)4月12日

以前この花を見たことがある鈴鹿の御池岳へ再び足を運んだが見つからなかった。

その時出会った方から後日、「入道岳で今満開のようだ」とのメールをいただき、横浜から急いで車を走らせる。

沢に沿った登山道を行き、途中で沢に下りてみると岩の陰に隠れて群生していた。コバイモ類でこのような群生に出会ったのは初めてだ。

コバイモにはホソバナコバイモを除いて国の名前が冠せられている。越、甲斐、美濃、出雲、土佐、阿波。この花を求めて国巡りをするのも楽しい。

 

霧ケ岳・カタクリ

(ユリ科カタクリ属)4月28日

ここは地元有志の人たちが登山道を開いた雪国の里山。

雪解け時に訪れると山道はカタクリの合間を縫うように走っている。

運が良ければ白花のカタクリにも出会えるだろう。

ユキワリソウと言えばオオミスミソウを一般に指すようだが、雪国では春一番に

出てくる花はすべてユキワリソウと呼びカタクリもその一つだ。

春の里山の楽しみは花を観ながらみずみずしい山菜を頂戴できることだ。

カタクリの葉もお浸しにするとほんのり甘く美味である。

葉を摘むなんて都会のカタクリ愛好家には目くじら立てられそうだが、

食べ過ぎると確実に腹を壊す。種保存の知恵の一つであろう。



高尾山・セッコク

(ラン科・セッコク属)5月25日

高尾山は手軽に行け、自然も豊富、そして神秘な雰囲気も漂う。

春夏秋冬人が押し寄せるのも無理はない。私も行くところに困れば訪れる。

高尾の花ではセッコクが一番神秘性を感じさせてくれる。

谷の暗い杉林の高い枝に白く輝くこの花を見つけるとなぜか「ああ、高尾はまだ健在だ」感じるのである。

古木に着生するので、たまに木の枝ごと落ちているのを見ることがある。

高尾山ケーブルの駅構内の古木にもこの花が咲いている。倒木から移植したもののようだが毎年見事に開花する。この画像はその移植した個体だ。

天塩山地・テシオコザクラ

(サクラソウ科サクラソウ属)5月29日

天塩山地のどこに咲いているのか見当がつかず困っていたところ、場所を知っているという人に出会い、頼み込んで案内してもらった。

そこは沢沿いの蛇紋岩帯の砂礫地であった。

どこかまとまりのない花というのが出会った時の第一印象だ。

葉には不揃いの切れ込みがあり、長くて細い花茎は好き勝手にくねり、漏斗状の筒部の先に着いた花の向きはバラバラで、よく言えば自由奔放に育っている。

写真を撮りにくい花、それがテシオコザクラだ。

アポイ岳・アポイアズマギク

(キク科アズマギク属)5月31日

アポイ岳は二つの大陸プレートが衝突し、日高山脈が出来たときの衝撃でマントルを構成する橄欖岩が突き上げられて形成された。

そこに咲く花にはその土壌の特質から多くの変種が見られ、このアポイアズマギクもその一つである。

高山に見られるミヤマアズマギクの変種には、この花以外にユウバリアズマギク、ジョウシュウアズマギク、キリギシアズマギクがあり蛇紋岩や石灰岩地帯に生育している。

アポイアズマギクの特徴は黒色を帯びた茎や葉と葉が細長いところにある。



八ヶ岳・ホテイラン

(ラン科ホテイラン属)6月1日

花の追っかけを始めて間もない頃、縮れた暗緑色の葉と先端が細ばった白い塊の頭を持つ物体を発見した。

まるで氷解間もないカタクリのようだと思いながら図鑑で調べるとホテイランの蕾である。

1週間後に再訪するとやや暗い樹林帯にポツポツと赤桃色の怪しい光が灯っていた。

蘭はどうして人を引き付けるのだろうか。どうしてこのような姿をしているのだろうか。ほかの花に対しても同様だが興味が尽きない。

富士山・コアツモリソウ

(ラン科アツモリソウ属)6月3日

太宰治は「富士山には月見草がよく似合う」と書いていたように記憶するが、

月見草が外来種だと知っていてもこの花を用いただろうか。

「桜」が一番無難だろうが、私は青木ヶ原樹海に咲くコアツモリソウを推したい。

背が低く、葉の陰で下向きに花を咲かせるので極めて撮りにくい。

江戸時代から続く登山道の脇にひっそりと咲いており、昔の登拝者もこの花に

気が付いていたのだろうか。

いやその頃は樹海の木々もまだ小さくて蘭菌は未発達で、この花は存在していなかったかも知れない。

筑摩山地・タデスミレ

(スミレ科スミレ属)6月4日

タチツボスミレの仲間だが、背丈は高く花は小さくタデのような葉を持った日本では珍しい姿をしたスミレだ。一枚の写真で表すのは難しい。

およその検討を付けて林道を探したが見つかりそうな雰囲気は全くない。

無駄だと思いながらも犬を散歩させていた人に聞いてみると、群生している場所がある別の林道を教えてくださった。

数年後再び訪れると群生地はフェンスで囲まれ間近に見ることが出来ない。

鹿から守るためか人間から守るためか、両方だろう。管理されてしまった花が気の毒だ。それでも林道沿いを丹念に探すと3~4本見つけることが出来た。

 

礼文島・サクラソウモドキ

(サクラソウ科サクラソウモドキ属)6月8日

この花に「モドキ」の名はないだろう。

分類学が盛んになったころ、手当たり次第に名前を付けたため、不遇な扱いを

受けている植物も少なくない。名付け親は子に責任を負わなければならない。

礼文島でも見られる箇所は少ないが、同時期に咲くレブンアツモリソウ周辺の喧騒とは縁がなくひっそりと咲いている。

近年の研究ではサクラソウ属の内群と判明したそうだ。

 

 

早池峰山・トチナイソウ

(サクラソウ科トチナイソウ属)6月8日

早池峰と言えばハヤチネウスユキソウと答えが返ってくるが、ほかにも素晴らしい花がたくさんあり私が好きな山の一つである。

蛇紋岩で構成されており一部は火山岩にも覆われ、特産種も多い。

この山に通い詰めている人からこの花の咲く場所を教えてもらい、登山者で賑わう前に見ようと早朝に出掛けた。

蛇紋岩の陰に隠れて開花直後の花は朝日に照らされ、茎の白毛がきらきら輝いている。素晴らしい。

感動を胸に頂上には登らず、他の花には目もくれず下山した。

 

八ヶ岳・ツクモグサ

(キンポウゲ科オキナグサ属)6月10日

6月になると八ヶ岳稜線はツクモグサ詣での人々で賑わう。

今や八ヶ岳で一番人気のある花かもしれない。

ほかの花々より一足先に開花するので得している面もあるだろう。

私は開花後の花より、開花直前の白い長毛を纏った蕾の姿が好きだ。

柔らかい毛と鋭い毛がが混じり、厳しい寒さから身を守っている。

毛に覆われていることが他の花に先駆けて開花できる理由かもしれない。

開花するとこの毛は次第に消えていく。

 

丹沢山地・サンショウバラ

(バラ科バラ属)6月16日

腰痛で入院し、退院後リハビリのため毎週のように丹沢を訪れ歩く距離を徐々に延ばしていった。そんな時不老山で出会ったのがこの花である。

南部フォッサマグナ帯のうち神奈川西部、山梨南部、静岡東部だけに見られる植物を「フォッサマグナ要素の植物」と呼ばれている。

サンショウバラもその一つである。

最近、山仲間に西丹沢のサンショウバラを案内してもらう機会があった。

尾根筋の平坦な地はこの木のみで埋め尽くされ、見る者を圧倒した。

丹沢にもまだこんなところが残っているのだ。

月山・シラネアオイ

(キンポウゲ科シラネアオイ属)6月18日

姥沢は春スキーのメッカで6月にスキー場がオープンする。

朝一番のリフトに乗り、終点からはまだ稼働していないワイヤーリフトに掴まりながらなんとか姥ケ岳山頂にたどり着いた。

尾根筋は雪が解け、新鮮なシラネアオイが点々と咲いている。

その瑞々しさを贅沢にも一人占めしながら目指した山頂の神社は、ガスのなかでまだ固く閉ざされていた。

美しい花弁のように見えるのは萼片で、日本では1科1属の花とされていたが、

今はキンポウゲ科に属している。

 

磐梯山・バンダイクワガタ

(オオバコ科クワガタソウ属)6月18日

磐梯山を代表する花でこの山の宝である。

牧野富太郎によって命名されたそうだ。

ミヤマクワガタの一種であるが、バンダイクワガタの葉の鋸歯は深く不規則である点で区別されている。

従来クワガタソウ類はゴマノハグサ科に分類されていたが、オオバコ科に変更された。

オオバコと言えば雑草の印象が強く、この花に似付かわしくないように感じるが、遺伝子的に同じであればそれも運命なのかもしれない。

 

白馬連峰・トガクシショウマ(トガクシソウ)

(メギ科トガクシソウ属)6月27日

沢に雪が落ち地面が現れると雪解け五人娘がその清楚な姿で斜面を競うように埋める。オオサクラソウ、キヌガサソウ、サンカヨウ、シラネアオイそしてトガクシショウマだ。

名のとおり戸隠山で発見された1属1種で、日本人によって初めて学名を与えられた植物のようだ。

最近はこの場所を訪れる人も増えているが、五人娘が競演している景観はいつまでも維持したい。

 

上高地・ヤマシャクヤク

(ボタン科ボタン属)6月18日

上高地に入ると自然と目線が上向くが、少し目線を下げキョロキョロすると広葉樹の陰でひっそりと咲いているこの花に出会うかもしれない。

花弁は3日と持たずに散ってしまうが、その短期間に効率よく受粉できるのだろうか。芳香があるとは言え不思議だ。

不思議と言えばなぜ上高地は小梨平や徳沢を中心として平坦なのだろうか。

最近読んだ本によると梓川は深い渓谷をなし、岐阜方面に流れ出ていた。

しかし噴火により堰き止められ土砂が堆積し現在の姿の礎を築き、その後流路を松本方面に求めたという。大正池が生まれるよりはるか、はるか昔の出来事である。



夕張岳・シソバキスミレ

(スミレ科スミレ属)7月2日

夕張岳の特産種にはユウバリ(ユウパリ)の名を冠するものが多いが、

この花には付けられていない。それだけ葉の個性が強いからだろう。

蛇紋岩質の砂礫地に生え、超塩基性質土壌に育つ植物特有の黒みをたっぷり帯びている。

頂上へ向かう仲間たちと途中で別れ、砂礫地斜面に点在するのを見つけた時「やった!」と思わず声がでた。

下ってくる仲間を待っていると、頂上で1玉を皆で分け合ったという夕張メロンの御裾分けをいただく。頂上でなくても夕張岳での夕張メロンは最高の味だった。

 

 

北岳・キタダケソウ

(キンポウゲ科キタダケソウ属)7月2日

長い間この花を見に行くことに躊躇していた。

自分の性格としてこの花を見れば同仲間のアポイ岳のヒダカソウ、崕山のキリギシソウを観に行きたくなるからだ。

でもヒダカソウは在り処が判らないし、崕山は入山規制で自由に探し廻れない。

最近、体力も気力もどんどん低下していくのを感じ、意を決して仲間を誘い

草滑りから頂上を超えて現場に辿りついた。

雨模様の天気で薄い花びらの先端は濡れて透き通っていた。

画面右下の株はキタダケソウではなく、ハクサンイチゲだ。

 

硫黄山・シレトコスミレ

(スミレ科スミレ属シレトコスミレ節)7月6日

カムイワッカの湯けむりを見下ろしながら進むと硫黄採掘跡地、樹林帯を経て

雪渓に降り立つ。どのような場所に咲いているのか想像しながら長い雪渓を黙々と歩く。やっと雪渓が終わると、小石と砂のざらざら道を稜線へと向かっている。

アイゼンを外し進み始めてまもなく先頭を行く者が「あった!」と叫ぶ。

あっけない対面だ。

強い紫外線から身を守る厚い葉に白地に黄の弱々しい花弁、これこそシレトコスミレだ。周辺の荒々しい硫黄の壁とのコントラストがなんとも言えない。

羅臼への縦走路には群生地があるそうだが、そこはヒグマの庭だ。遠慮しておこう。

 

利尻山・リシリゲンゲ 礼文島・レブンソウ

(マメ科オヤマノエンドウ属)7月6日、7日

黄白色の花がリシリゲンゲで赤紫色の花がレブンソウ。

レブンソウは礼文島固有種だが、リシリゲンゲは夕張、ニペソツにもあるそうだ。

レブンソウの白色バージョンもあるが、リシリの小葉は17~25枚に対し、

レブンは8~12枚と少ないのですぐ判る。

両花が咲くころ、ウニ漁も解禁されており、礼文島の西海岸で漁師さんから獲れたてのバフンウニをご馳走になった。割るとウニが食した昆布の屑が多数出てきたのには驚いた。礼文や利尻のウニが特においしい理由はいい昆布を餌にしているからだろう。

 

利尻山・リシリヒナゲシ

(ケシ科ケシ属)7月6日

八合目は谷から吹き上げる風が強く、頭でっかちなこの花は大揺れに揺れていた。なんとか写真を撮りたいと粘るが風は瞬間的にも収まってくれない。

えいやーとシャッターを切ったが結果は見事にすべてオオボケだった。

記念に一枚残すにはこんな写真を選ぶしかなかった。

後日発行された「山の花図鑑」にはこんな記載があった。「低地に植えられた近似種の種が利尻上部にまかれ、自生地で混生している」

言われて見れば利尻や礼文の家の軒先に多く植えられていたのを思い出す。

せっかく我慢して一枚だけ残したのにこれは果たして本物なのか。

 

八ヶ岳・(マルバナ)イワヒゲ

(ツツジ科イワヒゲ属)7月8日

通常のイワヒゲの花はやや細長いが、この花はまん丸い形をしている。。

稜線に出るとイワヒゲが密に咲いている岩があった。

比較的地味な花だがその中にひと際目立つ株があり、近づいてみると花が丸い。

八ヶ岳で花を追い始めて最初に出会った変わり種だ。

帰宅後図鑑で調べるとマルバナイワヒゲとあり、時々丸い花が現れるようだ。

これがきっかけで変わり種を探して歩くという楽しみが一つ加わった。

 

 

守門岳・ヒメサユリ

(ユリ科ユリ属)7月8日

この花は姿に相応しい名前をもらって幸せだ。

西のササユリ、東のヒメサユリ、日本人好みの色彩だ。

新潟、福島、山形の県境一帯の、標高200mから2000m近くまででみられるが、

守門岳山頂から越・会・羽の山々を眺めながら見るのが最高だ。

守門(スモン)岳の名前の由来ははっきりしないそうだが、山麓の集落には巣守神社が多くある。

麓の栃尾の山仲間二人には残雪期の登山や山菜採りでお世話になっている。その栃尾の地名も平成の大合併でほとんど消えてしまい寂しい。

早池峰山・ハヤチネウスユキソウ

(キク科ウスユキソウ属)7月16日

蛇紋岩が好きな人をジャーモン教信者と言い、聖地は早池峰、聖花はウスユキソウである。信者はただいま一人。

蛇紋岩はマントルを形成するかんらん岩に水が作用して出来たもので、柔らかく風化しやすく摩耗すると表面がつるつるになる。

水を十数%含んでいるというので「割れば水が出てくるのか」と地質学者に聞いたら、「イオンの形で含有しており出てこない」と笑われた。

雨の早池峰を下山途中、案の定見事に滑って杖だけが転げ落ち、拾いに行くとそこにハヤチネウスユキソウが待っていた。この花との初対面である。

 

立山・チングルマ

(バラ科ダイコンソウ属)7月19日、8月9日

初めて覚えた高山植物の名が立山で出会ったチングルマ。

まだ立山黒部アルペンルートは開通していなかった。

雷鳥沢で弥陀ヶ原へ向かうと告げると、小屋番から天狗平小屋への手紙を添えた小さな荷物を託されたが、小屋を素通りしてあわてて引き返したことを覚えている。

その頃の山はまだのんびりしており、高度成長期の社会に疲れた多くの若者が癒しを求めて山を目指した。

どこの高山でも大方見られる花であるが、この花を見るたびに「ああ、高い山へ来たんだ」と感慨に浸る。

 

東赤石山・コウスユキソウ・オトメシャジン

(キク科ウスユキソウ属・キキョウ科ツリガネニンジン属)7月23日

この山は三波川変成帯にあり、名の由来は橄欖岩が露出しその鉄分が酸化して赤茶けているところから来ている。

南アルプス赤石岳の「赤」は堆積岩の赤色チャートに由来している。

ウスユキソウを追い求めて最後に残ったのがコウスユキソウであったが、

この花は大峯山系以西に分布し暑さとの戦いになるため、意を決するまで時間を要した。

途中、超塩基性の土壌のため赤く発色したコアジサイに元気づけられながら頂上近くに達すると、この周辺固有のオトメシャジンと共に待っていてくれた。

背丈は15cmから30cmくらいだ。

大雪高原沼・タニマスミレ

(スミレ科スミレ属ウスバスミレ節)7月24日

名前も姿も目立たないが、日本では北海道高地の湿地にのみ見られる貴重な

スミレである。

実物は画像よりもう少し赤みを帯びているが、スミレの色を忠実に再現することはかなり難しい。

この花が咲くころセリ科の植物も新芽を多く出しお客さんをもてなす。

お客さんとはセリ科植物が大好物のヒグマである。

高原沼の遊歩道でも時々足跡や糞を見かけるが、監視体制が整っており出没時には入山規制の措置が執られる。

高原最深部で監視員にフィールドスコープでとらえたヒグマを見せてもらったが、とにかく大きい。本州のツキノワグマとは段違いで出会えば足がすくんで動けないだろう。

鯉が窪湿原・オグラセンノウ

(ナデシコ科マンテマ属)7月25日

センノウの仲間、フシグロセンノウ、マツモトセンノウ、エンビセンノウと見てくればオグラセンノウを残しておく訳にはいかない。

新見市の鯉が窪湿原にあると聞いていたが、横浜から行くには極めて不便でなかなか足が向かなかったが、四国からの帰りに思い切って立ち寄ってみた。

こじんまりした湿原ではあるが国の天然記念物に指定されている。

管理棟からすぐの場所に咲いていたが、写真を撮りやすくするため湿草原の中から一部を移植したそうだ。

この花の花弁は細かく分裂しておりナデシコ属の花を思わせる。別名もサワナデシコだ。「マツモト」と同様「オグラ」の名前の由来はよくわかっていない。

 

大雪黒岳・(ウズラバ)ハクサンチドリ

(ラン科ハクサンチドリ属)7月26日

この花を最初に見かけたのは幌尻岳だ。その個体は花つきも悪かったので葉の模様はきっと病気なのだろうと思っていた。

後日、「ウズラバハクサンチドリ」として図鑑に掲載されているのを知り、

それからウズラバ探しが始まった。

この花は白桃色から濃紺色まで多彩な色の個体があり、見た目を楽しませてくれるが「花より葉」でまず葉に視線を注ぐ。しかしウズラバは見つからない。

そしてもう忘れかけていた頃、黒岳の登山道の誰もが気づくようなところで見つかった。あっけない幕切れである。

 

尾瀬ヶ原・ナガバノモウセンゴケ

(モウセンゴケ科モウセンゴケ属)7月26日

食虫植物を見るのも尾瀬に行く楽しみの一つである。

この花は北海道と尾瀬ヶ原のみに分布する。

食虫植物は栄養分の少ない痩せた土地に生育し、虫を補助食品としている。

ナガバノモウセンゴケは時に蝶やトンボを捕らえ、隣り合った葉が協力しあい胴体や羽にくっつき動けないようにする。

小さな花は普通一日に一個咲くようだ。

この花が咲くころの尾瀬は、ニッコウキスゲの盛りも過ぎやや静寂を取り戻す。

 

至仏山・オゼソウ

(サクライソウ科オゼソウ属)7月30日

気を付けないと踏んずけてしまいそうな地味な花である。

やや湿った草地に咲いており、赤、白、黄色の花々に歓声をあげて行く人々も

この花は無視していく。いや気づかないのだろう。

蛇紋岩で知られる至仏山には特産の花も多くあるが、「シフツ」の名を冠せられているのはシブツアサツキぐらいである。この花もオゼソウになってしまった。

賑やかすぎる至仏山ではあるが、いつまでもそこにひっそりと咲き続けることを願う。

 

木曽駒ケ岳・クロユリ

(ユリ科バイモ属)7月30日

クロユリは白山のような群生より、ポツンポツンと咲いているのを見るほうが好きだ。

愛と恨みの花黒百合、「黒百合は恋の花」と歌われる一方、佐々成正伝説のような凄惨な怨恨の話もある。暗紫褐色の花被片のせいであろう。

木曽駒ケ岳は私が初めて登った日本アルプスの頂だ

大阪から夜行列車に飛び乗り、木曽福島までデッキでキスリングに腰を下ろし、疲れ果ててやっとの思いで頂上小屋にたどり着いた記憶がある。

憧れの花、黒百合に初めて出会ったのは翌日の千畳敷であった。

 



伊吹山・(イブキ)ルリトラノオ

(オオバコ科クワガタソウ属)8月7日

この山は全山石灰岩のため高木は育ちにくい。

夜中に麓を出発し頂上でご来光を拝み、すぐ来た道を引き返す。

これがドライブウェイ開通までの夏山登山スタイルであった。

日本海側気候と太平洋側気候がぶつかる位置にあるので植物は多様性に恵まれ、万葉の時代から薬草の宝庫としても有名だ。

この山固有の植物も多く一つ選ぶとすればどれにするか迷うが、瑠璃色を放ち一際目立つルリトラノオに白羽の矢を立てた。

ただ、クガイソウと入り混じって咲いているので遠目では判別しづらい。

大平山・オオヒラウスユキソウ

(キク科ウスユキソウ属)8月8日

大平山は標高1200m弱の山であるが、樹林帯では汗が吹き出し、笹に覆われた道は蒸し暑くてたまらず、藪を抜けると強い日差しが容赦なく照りつける。

バテバテの状態になったが、前方に白い大きな岩が見えたのでなんとか足を動かす。夏の北海道の低山を甘く見すぎていた。

白い岩は石灰岩でオオヒラウスユキソウはそこにあった。

ハヤチネウスユキソウのような大きさを想像していたが、花も茎も葉もみな一回り以上大きく重厚感あふれる。

日本で見られるのはこの山と崕山(キリギシヤマ)だけのようだが、暑さを思い出すと

もう一度訪れたい気にはまったくなれない。

 

忍野高原・ヒナノキンチャク

(ヒメハギ科・ヒメハギ属)8月10日

私は忍野集落を挟んで富士山側の梨ケ原(自衛隊演習場)と,

反対側の高座山南面の草地を忍野高原と呼び、花の観察を楽しんでいる。

高座山南面は忍草(シボクサ)地区の入会地で毎年4月には野焼きが行われる、そのため小さな花も陽の目を見ることが出来る。

ヒナノキンチャク、ハナハタザオ、ムラサキセンブリ等ここで初めて出会った花も多い。

特にヒナノキンチャクはこの草原で一番小さな花と言っても差し支えないのではなかろうか。

淡紅紫色の花はやがて果実となり小さな巾着が一列に並ぶ。

くじゅうタデ原湿原・ヒゴタイ

(キク科ヒゴタイ属)8月22日

高知の牧野植物園で出会って以来、草原に咲くこの花を見るのが夢であった。

8月初めから9月中旬まで順番に咲いていくので見られる機会は多い。

遠くからだと球体が一つの花のように見えるが、小さな花の集合体である。

その花は5弁でしかも風車の羽根のように曲がっている。

昔は草原のそこらじゅうにあり、盆花として重宝されていたようだが、

最近では栽培品ばかりが目に付き、野生のものは少なくなったようだ。

 

 

八ヶ岳・トラキチラン

(ラン科トラキチラン属)8月28日

阪神ファン(トラキチ)としてはどうしてもこの花に出会いたかった。

標高1800m前後、8月下旬から9月上旬、広葉樹林帯から針葉樹林帯に変わった少し湿ったところ。

的を絞って探し始めたが1年目は見事空振り三振。2年目も連続三振。3年目も追い込まれ、阪神は滅多に優勝しないのだから期待するほうがおかしいとあきらめかけた時、ふとギンリョウソウモドキのようなものが目に入る。

近づいてみるとトラキチランだった。小さくて見た目よく判らないがアップで撮ると正真正銘ランの形をしている。

同類にアオキラン、タシロランがあるがこの花が一番見栄えする。

 

地蔵岳・ホウオウシャジン

(キキョウ科ツリガネニンジン属)8月28日

オベリスクを戴く地蔵岳と観音岳、薬師岳からなる鳳凰三山は、近くに甲斐駒や北岳があるのでやや影が薄い。

観音岳、地蔵岳の花崗岩帯に咲く代表的な花がこの花とタカネビランジ。

タカネビランジは派手で目立ち、甲斐駒や北岳だとすれば、岩陰や岩の裂け目に隠れて咲いているこの花は鳳凰山である。

タカネビランジを見てからこの花に出会うと、なにかホッとする。

強い紫外線から身を守るため、谷間に咲くイワシャジンより色が濃い。



戸台白岩・チチブリンドウ

(リンドウ科タカネリンドウ属)9月6日

白岩は石灰岩の壁で、地質的には秩父層である。

その上の山腹を走る南アルプス林道には四万十層と秩父層の境界露頭ある。

この花は石灰岩質が好みのようで、川岸から少し離れたところに咲いていた。

ここではカワラウスユキソウやトダイハハコも見られる。

花がもう少し開いているのを見るため翌年も訪れたが全く姿を消していた。

翌々年も辺りを探し回ったが結果は同じ。

川の増水で流されたのか、そもそも数年に一度しか咲かないのか。

もう一度出会いたい。

 

佐川町・ジョウロウホトトギス

(ユリ科ホトトギス属)9月23日

本家本元のホトトギスを見るため、牧野富太郎を育んだ横倉山に出掛けた。

あいにくまだ蕾でがっかりしていると、地元の方が親切にも別の場所へ案内してくれた。

横倉山からはかなり離れた場所で、軽トラがやっと通れる道を峠まで上がる。

山に名前もなく自分の居場所がさっぱり判らなかったが、石垣があるので昔は集落があったのだろう。

その石垣から垂れ下がった花の内皮には赤い斑点がぎっしりと詰まっている

名の由来はこの斑点が鳥のホトトギスの胸の模様に似ているからと言われているが、ホトトギスの口内が真っ赤なことからこの名が付けられたと想像する。

尾鈴山・キバナノホトトギス

(ユリ科ホトトギス属)9月18日

ホトトギスには花が上向きに咲くホトトギス類と下向きに咲くジョウロウホトトギス類がある。

ホトトギス類で一番大きな花を咲かせるのがこのキバナノホトトギスであろう。

100名瀑のひとつ矢研の滝とは反対側の渓谷にはいくつもの小さな滝があり、ところどころにキバナノツキヌキホトトギスが咲いている。

最後に落差75mの白滝があり、滝を眺められる岩棚にこの花は咲いていた。

瀑布の音がこだまするややや暗い湿った場所で、凛として咲いている姿を見ていると時の経つのを忘れる。

矢並湿地・シラタマホシグサ、ミカワシオガマ

(ホシグサ科ホシグサ属・ハマウツボ科シオガマギク属)10月8日

この光景を「地上の銀河」「モネの庭園」などと呼ぶ人もいる。

模様は陽の差し具合によって刻々と変化するので立ち去りがたくなってしまう。

シラタマホシグサもミカワシオガマも東海丘陵湧水湿地群だけに見られるもので、ほかにもミカワバイケイソウ、トウカイモウセンゴケ等がある。

矢並湿地は環境保全のため一般公開日は限られており、公開日には地元小学生が

グループに分かれ自然の営みを説明してくれる。

 

 

 

天竜川元大島・ツツザキヤマジノギク

(キク科シオン属)10月19日

舌状花が筒状になっている珍しいキクである。

カワラノギクの変種だとか、ヤナジノギクとカワラノギクの雑種だとか、まだ解明されていない点が多いそうだ。

情報頼りに探し出すのは一苦労で、川岸を約2km歩いてやっと出会うことが出来た。

河原に群生していると聞いていたが、まばらに咲いているものしか見つけることが出来なかった。でも筒状がはっきり確認でき大満足だ。

地元では保全活動を行っているそうだが、川の増水等で環境はすぐに変化する。

 

種差海岸・アオノイワレンゲ

(ベンケイソウ科イワレンゲ属)10月24日

満開状態のこの個体はまもなく枯死し、葉腋から腋芽や走出枝を出して次世代へと繋ぐ。名は開花前は全体が青っぽく、蓮花の葉に乗っているように見えるから。

海岸の遊歩道を歩き回り、疲れたので喫茶店に入るとこの花の写真が掲げられていた。店の人は地元の写真家が近くの岩場で撮ったと説明してくれた。

翌日は海岸の岩場巡りに予定を変更し捜索開始、あっけなく何株も見つかった。

昨日通った道の直ぐ脇の岩棚だ。ハマギクやコハマギクに集中していたため見逃したのだろう。 

 

爪木崎・ソナレセンブリ

(リンドウ科センブリ属)10月27日

漢字では「磯馴千振」と書く磯に咲くセンブリだ。

私と同様にこの花を探しに来た人と出会い、その人が友人から貰ったという写真の景色を頼りに一緒に探し回り、やっと見つけることが出来た。

山に咲くセンブリとはかなり様相が違い、葉は厚く花はお椀型をしている。

花のない時期に葉だけを見るとハマボッスと間違えるかもしれない。

稀に白花もあり、ハマセンブリというそうだ。

 

 

 

高萩小浜海岸・ハマギク

(キク科ハマギク属)10月27日

秋も深まると山の花は姿を消すので海岸に出没することにした。

まるで知床のヒグマのようだと思いながら高萩駅に降り立つ。

この花の南限地は茨城県で、小浜海岸が最南端とされていたが、ひたちなか市の海浜公園でも発見されたそうだ。

図鑑で調べるとハマギクは草ではなく低木で、ハマギク属は日本特産の属でハマギク1種だけとある。花が大きく見栄えがするので盛んに栽培されている。

おまけが一つ。高萩駅前の小さな店の煮魚定食は値段が安く、味付けが最高であった。

浦富海岸・ワカサハマギク

(キク科キク属)11月7日

11月に鳥取を訪れた理由は二つある。

一つはこの花を見ること、もう一つは大山山麓に点在する道祖神を探すことである。道祖神は関東甲信越を中心に分布するが、なぜか鳥取に隔離分布しており、

しかも石に線刻したものが中心である。隔離分布の理由は判らない。

ワカサハマギクは主に福井県から鳥取県の日当たりのよい海岸に分布する美しいキクで近づくと樟脳に似た香りがする。

浦富(ウラドメ)海岸も静かで美しいリアス式海岸でジオパークに指定されている。

 

金剛頂寺・ヤッコソウ

(ヤッコソウ科ヤッコソウ属)11月16日

高知の札所巡りをしていた時、第二十六番札所金剛頂寺の境内で「ヤッコウソウ」自生地の看板を見たが、8月だったので奴さんはまだ姿を見せていない。

後年11月室戸足摺を訪れたとき再度この札所に足を運び、奴さんの勢揃いを見ることが出来た。

シイ類の根に寄生する完全寄生植物で葉緑素はまったく有しない。

知らない人は変なキノコだと勘違いするかもしれない。

残念なことにこの寺に参拝する巡礼者は先を急ぐのか、ヤッコソウの前を素通りして行く。